薄絹のような羽衣をまとった朱鷺の精ジエが地上に舞い降り、青年ジュンと恋に落ちる……。中国上海歌舞団『朱鷺』は、「鶴の恩返し」「羽衣伝説」「白鳥の湖」「オンディーヌ」など、古今東西、人々を魅了してきた物語の系譜に連なる作品だ。初めは戸惑いながらも次第に心を通わせるジエとジュンの踊りは、瑞々しいときめきで溢れている。また、バレエ「白鳥の湖」2幕さながらの見事なフォーメーションを作る朱鷺の群舞は、まさに洗練の極み。光と色が繊細に移ろうパステル画のような舞台に、民族舞踊とバレエやモダンダンスを融合させた上海歌舞団の踊りが鮮やかに映え、観る者は桃源郷のような幻想美の世界に誘われる。

 しかし本作は、単なる古(いにしえ)の恋物語では終わらない。ジエはジュンのもとを去り、時代は古代から、まず自然が破壊され荒廃した近代、さらに、朱鷺が絶滅状態にある現代へ。かつての麗らかな情景とは打って変わって、ここではシャープな動きに乗せて嘆きや苦しみが表現される。

 1000年もの歳月の間、出会いと別れを繰り返しながら、次の時代・世代に引き継がれていくジエとジュンの愛。たとえ個体としての生物の命は尽きても、思いが繋がり、絆が深まり得る。そのことをかくも雄弁に示す舞台に、胸を打たれずにはいられない。観る者を深い感動に導く世界がここにはある。

文・高橋彩子(舞踊・演劇ライター)

人間界に舞い降りた朱鷺(トキ)と青年の愛の物語

第1幕

古代。人々が長閑に暮らしている、牧歌的な村。山に入った青年ジュンは、羽衣を脱いで憩う朱鷺の精達に遭遇し、ひと際麗しいジエに惹かれてその羽衣を手に取る。運命の出会いを果たしたジエとジュンは、互いについて学び、共に生きようとする。しかし、異なる世界に生きる彼らは別れる運命にあった。ジエはジュンのもとに羽根を1本残し、羽衣をまとって飛び立つ。ジュンは羽根を手に、ジエが消えた空をみつめる―—。

第2幕

近代。1幕から一転、世界は都市化されている。朱鷺たちの身体は黒く染まり、動きにもかつての煌めきがない。そこに舞い落ちる1本の白い羽根。生き物の手から手へと渡るその羽根を最後に拾ったのは、カメラマンの青年ジュンだ。彼は弱ったジエをみつけ、介抱する。ジュンが持つ羽根に気づくジエ。時空を超えて再会した2人は、かつてのように飛翔しようとする。だが、甚大な自然破壊を前に、朱鷺たちは次々と落命し標本箱に入れられ、やがてジエも、箱に納まる。

 時は移り、現代。博物館では、教師が標本箱を示しながら学生たちに朱鷺のことを教えている。今や老人となったジュンは、箱に入ったジエに羽根をつける。すると、朱鷺と人とが共生していた、ありし日の楽園の情景が広がっていく。美しい記憶と共に、ジュンは羽根を学生に託すのだった。